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なぜ「お勉強」好きな人は仕事ができないのか(紹介記事1/2)

「勉強」と「お勉強」は仕事の役に立つのか

 皆さんの周囲にこんな人はいないだろうか。「うちの社員は基本的な知識すらあやふやで、ちっとも『勉強』しない」といつも怒っている人。かたや「うちの社員はろくに仕事もせず、大学院とやらに通って『お勉強』ばかりに精を出している。もっと顧客を観察し、自分で考えることが大事なのに……」と嘆く人。

 こんなふうに勉強を否定する人は必ずいるだろう。揚げ句の果てに「お勉強」好きは仕事ができないと言い切る人もいる。さて、その真偽やいかに。

 「勉強」を肯定する人は「ビジネス遂行のため、基本的な知識を身に付けることは当然必要」「勉強して資格でも保有すれば、信用にもつながる(し、転職にも有利)」「勉強すれば、視界が開け、新しい世界を見ることができ、創造につながる」と考えている。

 そして、近年、日本企業が弱くなった理由を勉強時間の少なさに求める。OECD, “Skills Outlook 2017”によると、25〜64歳の被雇用者のうち1年以内にリカレント教育(教育と就業を交互に行う教育)に参加した者の割合は、OECD28ヵ国中、日本は22位だという。「ほら、勉強してないからダメになったんですよ」という理屈だ。

 さて、「勉強」を嫌う人は、「『お勉強』で習うこととビジネスはまったく別だ。実践知は学問知とは違う。資格とか、まったく意味ないし…」「頭でっかちなヤツに仕事のできるヤツはいない。口ばっかり達者で手を動かさない、行動しない」「現地・現物・現実こそが大事。3つの現に真剣に取り組めば本質がわかる(三現主義)のに、机上の空論ばかりしている」などと言う。

 そして、ヘンリー・ミンツバーグ氏(『MBAが会社を滅ぼす』日経BP社)や遠藤功氏『結論を言おう、日本人にMBAはいらない』角川新書)を引き合いに出して、日本企業の衰退を、MBA教育などのビジネス教育の隆盛に帰するだろう。

 さて私はというと、肯定派でもあり否定派でもある。もう少し言うと「勉強」肯定派であり、「お勉強」否定派である。禅問答ではない。こと実業の世界においては、「勉強」という言葉が指す中身は、さながらマズローの欲求5段階説のように遷移し、人によって想定している中身が相当に違うのである。「勉強」と「お勉強」の違いも含めて語ってみたい。

勉強の5段階説?知識習得から越境変容まで

 ここで、実業の世界における「勉強の5段階説」について、解説していきたい(なお、こちらは、私個人の認識枠組みなので、学問知を欲する方の求めるものではないかもしれない)。

(1)知識習得段階

 「枠組みの決まっている体系化された知識、ノウハウを習得するために努力する」段階。

(2)問題解決段階

 既存の体系的な枠組みの中から、「問題解決に適切な思考認識・行動パターンを探索、抽出し(勉強し)、それを問題解決に活用しようとする」段階。このとき、自分の関心が体系的な枠組みの中のどの領域を扱っているのか、なぜそこを使っているのか、を自分なりに客観視し、自覚できるようになれば、同段階の中でもかなりの上級レベルである。

(3)視野拡大段階

  (2)で既存の枠組みの中に十分に有効な手だてが発見できない場合、「他の知識体系や領域の中にヒントを探す活動(勉強)をする」段階。人によっては、特定の問題の解決に限定せず、「常日頃から(潜在的な問題も含めた)問題解決のヒントになる事象がないか気をつけて外部と接している」人もいる。

(4)検証適用段階

  (3)の中で有望なヒントや事象を見つけた場合、それがどのような歴史的背景のなかでどう生成され、現在、他の要素との関係においてどう機能しているかを学習、理解した上で、「自分の問題解決にどのように応用できるかをシミュレーション(勉強)し、適用を遂行することを習慣としている」段階。(4)をしっかりとやることで、他領域の知見が問題解決に意味のあるものになる可能性が高まる。

(5)越境変容段階

 「((3)(4)で関わった)自分にとっての新しい領域を深く学ぶべく格闘し、自分が変わっていく」(勉強)段階。その際、自分がこれまで使用してきた思考行動パターンの割合が縮小し、新しく獲得した思考認識や行動パターンと融合することで、新しい世界観や言語体系を獲得することができる。

 ビジネスにおける勉強とは、おおよそこのようなものであろう。

 まず、(1)の「知識段階」では、四の五の言うより、とにかく必要な知識をさっさと身に付けてしまうのがよい。会社の業務が求める基礎的なスキルとともに、今なら統計的知識やプログラミング、英語の読み書きや話す技術なども含まれる。この種の勉強を否定する人は(あまりいないと思うが)、やる気がないか、社会の変化が見えていないということなのだろう。たまに、この段階を教えてくれる先生の中に、その知識体系の持つ豊穣な意味や世界観を巧みに見せてくれる人がいる。こういう先生に習うと、知識習得段階から次の段階にごく自然に進むことができる。

 (2)の「問題解決段階」では、スタンスが重要だ。自分の問題意識を明確にし、ある知識体系のどこが使えそうか、それを使ったら何が解決できるが何が残るか、残された問題はどのような知識を利用することで解決できそうか、などを徹底的に考え抜く姿勢である。こういった意識が弱いまま、キーワードや定説や方法論を暗記するように「お勉強」して、それを適当に使っているだけだと、役に立たないへっぽこ知識を振り回す人になる。そして、「○○によると」と立派な学者の名前を連呼したり、あるいは、理論を絶対視し、都合の悪い現実の方を無視したりする。

 「お勉強」なんか不要という人の多くは、問題解決の意識の低いままに(1)の段階の知識を(2)の問題解決に使う振りをしながら、実際には単に「俺はこんなことを知っているんだぞ」と知識を開陳している人に、疑義を呈しているのである。

 (3)「視野拡大段階」では、「内にこもるな。旅をし、本を読み、社外の人と話し、美しいものを見て、あらゆることを吸収しよう!」といった話になりがちだ。これもやりようで、(2)の「問題解決段階」を常日頃からしっかりと体験し、さまざまなことに問題意識を持っている人は、何をしても勉強になる。見るもの聞くものすべて(潜在的関心を含む)が、当人のアンテナに引っ掛かり、それらが次々と自分の中の既存の知識と接続され、(ものによっては時間を経て)意味を持つ。

 一方、旅をし、本を読み、人と語らうのだが、仕事の成果に結びつかず、ただ新しいものに目移りしているだけのように見える人もいる。

 そして「こんな新しいことがあります!」と報告してくるのだが、「で、それがどないしたんや」とこちらは言うことになる。

 (3)の「視野拡大段階」における勉強が、肯定されるか否定されるかは、その人が(2)の問題解決段階を十分に経ているかによる。(2)をスキップした人の(3)における「お勉強」は、当人は真面目に勉強しているつもりでも、周りは許容できない。

 (4)「検証適用段階」にあるのは、(3)の「拡大段階」で知り得た他領域の考え方や方法が、いかなる背景の上に成り立ち、いかなる目的に対して、いかに機能するかをシステマチックに認識し、その上で自分の問題解決に適用し、検証しようとする態度である。

 「欧米では」「グローバル企業の〇〇では」と言うのが好きな「ではの守」。実は「ではの守」にも尊敬される人とそうでない人がいる。尊敬される人は、単に欧米の例や〇〇の例をうのみにして広めるのではなく、「これこれの歴史的背景と制約条件のある〇〇でこのように機能したのだから、重要なのはXXだ。それをわが社で応用するとしたら、△△に気を付けなくてはならないだろう」という考え方をしているのだ。多面的な尺度から構造的に把握する勉強の姿勢と習慣を持っており、それ故に仮説が生まれ、その仮説を基に実行しようとする。この段階にある人の仕事は安心して見ることができる。たとえ失敗しても必ず何かが得られる。

 (5)「越境変容段階」。これこそ、勉強らしい勉強である。別の分野に没入していく際の居心地の悪さが、新しい創造の機会を生む。 自分がすでに持っていたものと、新しい外来のもの、すなわち、異なる要素同士の統合が行われる。あるいは、まったく新しく血が入れ替わるような体験かもしれない。一般企業でここまで到達して勉強している人は少ないが、異業種への転職やまったく違う職種への異動などは、この段階を経験するチャンスである。ただ、こちらも上記の(1)〜(4)段階を経た人や、少なくともその素養がある人でなければただ単に、(1)のお勉強になってしまう。

 さて、この(5)段階目は、短期的には生産性が著しく低下するので、よほど当人に強い意志がないと会社や上司はこれを容認できない。人事考課も悪くなる。だから推奨されないし、やらないし、やれないのだ。千葉雅也氏の著書『勉強の哲学』には、「勉強とは、これまでの自分を失って、変身することである。だが人はおそらく、変身を恐れるから勉強を恐れている」と書かれている。確かに、この段階の勉強は、培ってきた自己の崩壊につながる可能性もあるから大変恐ろしい。


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